建築書ガイド#2【ブックガイドのブックガイド】
谷繁です。
更新がかなり遅れてしまい、申し訳ない感じです。
今回から実際に本の紹介をしていきます。
とはいえ、すでに多くの建築ブックガイドが世に出ています。
先日も『GA JAPAN 145号「建築にまつわる本のはなし」』
が発売されました。
僕の目指すところは「学生目線のブックガイド」なのですが
こうした既刊のブックガイドが多種多様で面白いので
まずは「ブックガイドのブックガイド」から始めます。
今回扱うのは
①『建築家の読書術』
②『SD選書の本』
③『GA JAPAN 145』
A.D.A.EDITA Tokyo
④『都市論ブックガイド2 つぎたして150冊』
南後由和+明治大南後ゼミ
⑥『建築・都市ブックガイド21世紀』
⑦『建築家の読書塾』
難波和彦編
⑧『20世紀の思想から考える、これからの都市・建築』
YGSA編
⑨『建築の際』
以上9冊です。
サクッと本に出会える3冊
時間がない、本を普段読まないという人へおすすめを紹介します。
『建築家の読書術』五人の建築家が選んだ100冊
- 作者: 平田晃久,藤本壮介,中村拓志,吉村靖孝,中山英之,倉方俊輔
- 出版社/メーカー: TOTO出版
- 発売日: 2010/10/25
- メディア: 単行本
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『建築家の読書術』は当時30代だった5人の若手建築家が一人20冊ずつ選び、行った連続レクチャーをまとめたもの。話し言葉ベースなので読みやすいです。
文学や哲学書など建築書に限らず、愛読書を紹介しているので建築家たちが「何を読み、何を考えてきたか」を追体験できる構成になっています。
僕は藤本壮介さんがボルヘスやカフカを選ばれていて、建築作品との不思議な連関を感じて「なるほど」と思いました。
『SD選書の本』定価0円のコスパ最強本
建築学生がとりあえず勉強しなきゃと思ったときの定番、鹿島出版会のSD選書。
2000円以内で名著中の名著が読めるシリーズです。
ただ現在に至るまで268タイトル発刊され、どれを読めばいいのか悩みどころです。
そんな時、僕のお勧めは『SD選書の本』です。
『SD選書の本』は青木淳氏・隈研吾氏など34人の建築家や建築史家に聞いた「印象に残るSD選書と思い出」をまとめたアンケート集と、槇文彦氏や原広司氏による書評集がまとまった一冊。
巨匠たちのセレクトがかぶりにかぶっているので
「結局みんな同じの読んでるじゃん」ってなるので安心します(?)。
一番の驚きは、無料で配布されていること。
絶滅危惧種になりつつありますが、まだ大型書店では時折残っています。
この豪華すぎる出版目録を、あの手この手で入手しましょう。
『GA JAPAN 145』建築言論復活への期待感
今月のGAは建築書特集。
雑誌なのでカジュアルで読みやすく、幅広い切り口で本が紹介されています。
「庭」「歴史」「(時代の)転換点」といったテーマ別の本紹介や
建築家50人に必読書や愛読書を聞いた「本とわたし」というアンケートは読みごたえがあります。
50人の建築家たちには日本人だけではなく、ノーマン・フォスターやスティーブン・ホールと言った名前もあり、さすがGAだから成せる業という感じです。
また鈴木了二氏、藤森照信氏ら15人の建築家へのインタビューでは、背景に彼らの蔵書を覗き見ることができます。
あらゆる名著を網羅する3冊
広大な本の海を、体系的に、アカデミックに進むための3冊
『都市論ブックガイド2 つぎたして150冊』建築と社会をつなげる
『都市論ブックガイド2 つぎたして150冊』は、明治大学南後ゼミで社会学を学ぶゼミ生による書評集。建築に限らず、社会学、哲学、思想一般から紹介されるので、建築論と人文科学の接点を提示してくれるブックガイドです。
学部生による書評なので、中には感想文レベルのものもあり残念ですが、平易な文章で要約・論考をアカデミックにまとめていて、勉強になります。
READINGS〈1〉建築の書物・都市の書物 (10+1 Series)
- 作者: 五十嵐太郎,メディア・デザイン研究所
- 出版社/メーカー: INAXo
- 発売日: 1999/10/20
- メディア: 単行本
- クリック: 4回
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約50名の執筆者によって20世紀に出版されたものから100冊が選ばれレビューされています。
西洋近代建築/西洋現代建築/日本近代建築/日本現代建築/建築史/批評/都市/芸術/文学/思想という10のテーマに分けられており、関連文献同士がリンクされた構成になっています。
いままで紹介したブックガイドとは違い、本の紹介ではなく書評・論考・解釈という性質が強く、ある程度前提知識がないと難しく感じるかもしれません。
巻末に『建築の書物/都市の書物1000』という千冊分の参考文献が付録されていますが、これは未邦訳文献も豊富でかなり有用です。
『建築・都市ブックガイド21世紀』 20世紀との接続性
『建築・都市ブックガイド21世紀』も、五十嵐太郎氏によるブックガイド。
前述の『建築の書物/都市の書物』が20世紀をテーマにしていたのに対して、こちらは1990年以降に出版されたものを中心に70冊ほどが選ばれています。(参考文献を含めると300冊ほどです。)
1990年以降とはいえ、ヴェンチューリやシュルツなどの歴史的名著も紹介されており、過去から現代までの言説の変遷をまとめるという意図を感じます。
巻末には付録として、ブックマトリクス(本の年表・地図?)がついています。
ただこの本の発売から7年ほど経ち、いま見ると21世紀からセレクトされた本がすでに色褪せている印象があり、今世紀において建築学生の誰しもが競うように読んで影響を受けるような強力なテクストがなかなか成立していないのではとも思います。
読みながら、議論を深める3冊
本にまつわる議論や対談をまとめたものを紹介します。
『建築家の読書塾』 とらえなおす「近代」
『建築家の読書塾』は難波和彦氏と難波研や界工作舎出身者を中心とする読書会LATsの論考集。
モダニズム運動という流れの中で単純化されすぎてしまった「近代」を、様々な理論を再読して再評価するというテーマ性の高いブックマップです。
選ばれているのはわずか12冊ですが、コールハースやルドフスキー、ジェーン・ジャイコブス、多木浩二など建築・都市論での定番だけではなく、エドマンド・バークやJ・J・ギブソンなど広く一般に近代を扱います。
また難波先生でいえば、web上に必読書を公開しています。
(必読書をめぐって | 難波和彦 ‹ Issue No.38 ‹ 『10+1』 DATABASE | テンプラスワン・データベース)
『20世紀の思想から考える、これからの都市・建築』 6人の巨人の現代性
『20世紀の思想から考える、これからの都市・建築』は建築界に影響を与えた6人の理論についての対談をまとめたものです。対談本なので比較的に読みやすいです。
アンリ・ルフェーブル、コーリン・ロウ、ケネス・フランプトン、アルド・ロッシ、クリストファー・アレグザンダー、レム・コールハースが選ばれています。
学部生で彼らの6人の主要著作をすべて読むのは物理的に厳しいので、こうした対談集で、現代的な解釈を概観するのは意義があると思います。
ただ個人的には、上の世代に20世紀の建築理論を整理されすぎてしまう危険性をこの本は持っていると感じています。
『建築の際』 建築をいかに広げるか
『建築の際』は東大で行われた連続シンポジウムの記録です。
ブックガイドではないのですが、各シンポジウムごとに10冊ずつ書籍の紹介が充実しているのでおすすめです。
建築家たち、石田英敬や暦本純一といった他分野の学者、野口秀樹や黒沢清といった文化人が様々なテーマで議論しています。『建築の際』という名前の通り、どうしても内向的な建築の世界を押し広げてくれるような一冊。
番外編
ネット上にも大学研究室の必読書など多くのブックガイドがあります。古書山翡翠さんのtwitter(古書山翡翠|建築の古本屋 (@kosho_yamasemi) | Twitter)で『#建築と本』というハッシュタグできれいにまとめられています。(先を越された...)ぜひ検索してみてください。
まとめ
以上9冊のブックガイドを紹介しました。ご参考になれば幸いです。
もし、日頃本を読まないという方は、『建築家の読書術』のように若手建築家がカジュアルな言葉で語る読書体験などを介して、名著に挑むと比較的入りやすいと思います。
一方で、アカデミックに建築理論の体系を理解したい場合は後半で紹介したものが役に立つでしょう。
また実際に読まなくとも様々な本を、それがどんな内容で、どんな歴史的位置づけや現代的な意味をもつのかを大づかみに理解する上で、ブックガイドは重要だと思います。
ただ建築家は建築のプロであって、テクストのプロでないことに気を付けなければなりません。
テクストを単純化しすぎて解釈されることがあり、建築界での一般的な理解と実際の本の内容がかい離していることもあります、だからこそ実際に本を読んでみる価値があるのかもしれません。
次回はこの辺りの実際に読んでみる価値についても掘り下げながら、
「『建築をめざして』を読む必要はあるか?」と題して、数々の建築家のマニフェスト的名著たちを紹介します。